クォンティフェロンって何ですか?(QFT-2G検査とは?)
国立病院機構南京都病院
倉澤卓也
クォンティフェロンQuantiFERON TB-2G (QFT-2G)検査とは?
結核菌に対する免疫はT細胞と呼ばれるリンパ球が主体となる細胞性免疫です。結核菌の初感染(初めて結核菌に感染すること)後およそ4~8週でこの細胞性免疫が獲得されます。
結核免疫の有無は従前よりツベルクリン皮内反応(ツ反)によって判定されてきました。現在使用されているツベルクリン液は結核菌から精製された多価抗原性の蛋白質溶液(PPD: purified protein derivative)で、結核ワクチンであるBCGを含む結核菌以外の抗酸菌(結核菌を含む一群の細菌の名称)に由来する蛋白質とも共通性も高く、結核未感染のBCG 接種者や非結核性抗酸菌(結核菌群以外の抗酸菌)感染者の多くもツ反は陽性となります。このため、BCG接種が広く普及しているわが国ではツ反陽性は結核既感染を必ずしも意味しません、即ち、ツ反の感度(既感染者に占めるツ反陽性者の割合)は90%以上と良好ですが、その特異度(未感染者に占めるツ反陰性者の割合)は著しく低く、ツ反の臨床応用は今までも限定的なものでした。
そこで、結核感染の有無を判定する新らしい検査法として開発されたのがQFT-2Gです。QFT-2Gは結核菌群(他に、M. kansasii, M. marinum, M. szulgai, M. flavescens, M. gastriiおよびM. leprae)が産生し、世界中のBCGワクチン亜株やわが国で最も多い非結核性抗酸菌症の原因菌であるM. avium,・M. intracellure(MAC) は産生しないESAT-6とCFP-10という2種類の蛋白質を抗原として用いることにより、BCG接種やMAC感染には影響されず、結核に対する免疫の有無を判定する検査法です。
このQFT-2G検査はわが国でも2005年4月に体外診断用医薬品として承認され、2006年1月より保険適応も認められています。その適応は、「診療または画像診断等により結核感染が強く疑われる」場合とされています。
QFT-2G検査の実際は?
QFT-2Gは結核菌群等に特有の2種の蛋白質:ESAT-6とCFT-10を抗原としてリンパ球(Th1)を刺激し、Th1より産生されたインターフェロンγ(interferon-γ)量を測定し、結核感染の有無を判定する検査法です。
検査の詳細は省きますが、5mlの静脈血を必要とします。
判定は、ESAT-6またはCFT-10の測定値から陰性コントロールの測定値を引いた値のいずれかが 0.35IU/mL以上の場合を陽性(結核感染を疑う)、0.35未満~0.1IU/mLを判定保留(感染リスクの度合を考慮し、総合的に判断する)、 0.1IU/mL未満を陰性(結核感染していない)、と判定します。但し、陽性コントロールと陰性コントロールの差が0.5IU/mL未満の場合は判定不可とする、とされています。
QFT-2Gの検査特性と臨床応用はどうなの?
現在、結核菌感染を規定する絶対基準(Gold standard)はありません。森亨らは、日本人の排菌陽性結核患者を対象として、QFT-2Gの感度を89.0%、BCG既接種の看護学生を対象として、QFT-2Gの特異度を98.1%、と報告しています。その他の報告でも感度85%以上、特異度95%以上とするものが多く、この検査は特異度が特に優れています。
表は森らの成績を元に作成した既感染率50%の集団(①:わが国の65歳前後の既感染率)と既感染率1%の集団(②:わが国の20歳前後の既感染率)の2×2表です。既感染率の高い集団(既感染率50%)では陽性者はほぼ既感染者と考えられますが、陰性者の約1割も既感染者となります。一方、既感染率が著しく低い集団(既感染率1%)では、陰性者は未感染者と考えてまず間違いないのですが、陽性者のうち真に結核菌に感染しているものはその1/3以下となります。既感染率が低い集団の場合、感染の有無の判定には排菌者との接触歴の有無など他の要因も含めて総合的に判断しなければならない、ということになります。
では、QFT-2G検査はどの様な時にその有用性を発揮するのでしょうか?
- 接触者検診への応用:濃厚接触者を対象として実施し、陽性率が高ければ、検査範囲をその周辺へと順次拡大していく。
- 医療従事者の結核管理:まず、採用時に実施、結核患者との接触が明らかになった際に再検する。
- ハイリスク者の化学予防:糖尿病患者や免疫抑制剤・TNF-α受容体拮抗薬などの投与前に化学予防の必要性を検討する。
- 結核の補助診断:排菌陰性者の補助診断やMAC症との鑑別診断、等。
終わりに
QFT-2Gは決して結核診断のゴールドスタンダードではなく、あくまでも結核の補助診断法に過ぎません。結核診断の基本は菌検査(喀痰等からの結核菌の証明)であることを決して忘れてはなりません。
なお、この検査法の詳細は、日本結核病学会予防委員会より平成18年5月に、「クォンティフェロンTB- 2G の使用指針」が報告され(結核81、393-397、2006)、また、同学会のホームページの委員会報告にも掲載されておりますので、是非、ご参照下さい。
表:既感染率の相違によるQFT-2G陽性・陰性の解釈の差(感度89%、特異度98%とする)
既感染者 | 未感染者 | 計 | |
---|---|---|---|
陽性 | 445 | 10 | 455 |
陰性 | 55 | 490 | 545 |
計 | 500 | 500 | 1,000 |
- 陽性者の97.8%(445/454)は既感染者
- 陰性者の10.1%(55/545)は既感染者
既感染者 | 未感染者 | 計 | |
---|---|---|---|
陽性 | 9 | 20 | 29 |
陰性 | 1 | 970 | 971 |
計 | 10 | 990 | 1000 |
- 陽性者の31.0%(9/29)が真の既感染者
- 陰性者の0.1%(1/971)が真の既感染者