小児の肥満
この解説は親子の夏休み肥満教室で使用したものです。
国立病院機構南京都病院小児科
はじめに
最近、子供達の肥満が増加してきていて、大きな問題になっています。
近年の報告では思春期に肥満であった人は肥満でなかった人と比べて、老年期以降の生活、医療、生命予後が悪いこともわかっています。また思春期の肥満はほとんどが小児期肥満の持ち越しです。
そういった意味で、小児期に肥満対策をとることは大変重要な意味を持ちます。
有り難いことに、小児期には成長を始め、大人とは違った沢山の有利な特性があります。その特性を生かして肥満を予防、改善することは、成人肥満より容易でかつ効果が持続し易い傾向があります。
我々は、これまでの肥満治療の経験を生かしこの冊子を作りました。子供達が将来にわたってのびのびと心身共に健康な生活を送るために活用していただけますと幸いです。
肥満とは
肥満とは、体内、特に皮下に脂肪が増えて太っていることを言います。
子供の肥満は、放置すると次第に増強し、ほとんど全員が大人の肥満に移行してしまいます。脂肪が増えすぎたことで多くの病気が合併しやすくなります。太っている人は普通の人と比較しても明らかに脂肪率が高いのです。合併症がある場合はもちろん、無い場合でも合併症を防ぐ目的で、太っている人は、肥満解消の努力が必要であり、特に中等度、高度肥満や合併症のある人は積極的な治療が要ります。ではどうすれば体の脂肪量がわかるのでしょうか。最も分かり易いのが身長と体重から肥満度を計算する方法です。
肥満度(%)=(その人の体重-標準体重)÷標準体重×100
標準体重については別表を参考にして下さい。
正常 | 肥満度20%以下 |
軽度肥満 | 肥満度20─30% |
中等度肥満 | 肥満度30─50% |
高度肥満 | 肥満度50%以上 |
しかしこれだと体格の良い人も引っかけてしまいます。そこで電気抵抗から直接脂肪率を測定する方法(インピーダンス法)を利用します。これも広く用いられるようになりましたが、判定には一定の配慮を必要とします。
その他、皮下脂肪厚を計測したり、お腹周りとヒップ周りを比(W/H比)にしたり様々な方法を利用しています。
病院では以上の方法をミックスして、個別の脂肪量をフォローしていますので、体重の上下に動揺することなく正しい肥満治療を実践しています。
軽、中等度肥満は、食生活や日常生活習慣を改めるだけで、かなり効果は認められます。高度肥満は、直りにくく糖尿病や脂肪肝、高血圧や高脂血症などの合併症も小児期から起こってくることが多いのです。従って必ず検査を受け、医師の適切な指示に従う必要があります。
肥満の子供のライフサイクル
- 1. 乳児肥満
- 1歳前後までに出現、昔「健康優良児」、いわゆる良性肥満。
- 思春期肥満の20%前後が乳児期より肥満。
- 近年増大傾向、肥満が持続しやすくなっている。
- 2. 少年期肥満
- 幼児期から学童期に出現する肥満、いわゆる悪性肥満。
- 乳児期肥満から30%以上(近年増えている)移行する。
- 動脈硬化の始まり、糖尿病発病児の増加。
- 高血圧症の始まり。
- 3. 思春期肥満
- ほとんど小児肥満の持ち越し、初発は稀。
- 関節障害多い。思春期ゆえの対応困難。
- 近年の報告では、老年期の予後不良。
- 4. 成人肥満
- 約1/3が思春期よりの持ち越し。
- 小児肥満の80%以上が移行する。
- 5. いわゆる生活習慣病(成人病)その他の病気
脂肪細胞とは
体内の脂肪組織が増えるのが肥満ですが、その脂肪組織を構成する物が脂肪細胞です。二種類の脂肪細胞が存在します。
- 1. 白色脂肪細胞
- 過剰エネルギーを中性脂肪(肝臓で産成)にして貯蔵。
- 交感神経が直接来ない(血管を介して)。
- 2. 褐色脂肪細胞
- 寒冷、過食時の熱産成、体温調節とエネルギー消費。
- 交感神経が直接支配。
- 新生児から乳児期に最大量となり、以後漸減、思春期以降。
- 急減すると言われる。
基本的に白色脂肪細胞の増え過ぎが肥満といえます。
そのパターンは二種類あります。
- 1.脂肪細胞増殖型
- 脂肪細胞の数が増えた肥満。
- 小児期からの肥満に多い。
- 2.脂肪細胞肥大型
- 脂肪細胞自身や細胞内の脂肪滴が大きくなった肥満。
- 成人になってからの肥満に多い。
一般的に脂肪細胞は、増える時期が決まっています。
- 1. お母さんのお腹の中にいる時期(妊娠末期3ヶ月)
- 2. 生後1年ころ
- 3. 思春期(大人になりかけた時期)
- 脂肪細胞を増やさないためにも、思春期までが特に大切になります。
肥満の成因(なぜ太りすぎるのか?)
カロリー摂取過剰、吸収の効率性、エネルギー消費量等のバランスで決定。
その背景になるのは
- 1.遺伝の問題
- 肥満遺伝子の存在。(レプチン他多数わかっている)
- 家族的に肥満傾向が高い。
- 但し、この十年余りでの肥満児の急増は説明できない。
- 2.家庭環境
- 食事量が多い(特に夜)、晩ご飯が遅い、油物が多い。
- 夜食、間食が多い。
- 3.社会環境
- 簡単に食べ物が手に入る。
- 運動不足、都市化現象。
- 4.学校生活
- 食事時間が短いため、早食いになる。
- 休み時間も、太った子は体を動かさない。
結果的に過剰カロリーが脂肪となって蓄積することになります。それが更に運動不足を招き悪循環に入ってしまいます。
肥満の治療
肥満の治療は1.食事療法2.運動療法3.生活療法の三本柱から成り立っています。
1.食事療法
食べ物は、体の中でエネルギーを出し働く力の元になります。エネルギーを必要以上にとることが肥満と言うわけです。
エネルギーの必要量は個人差がありますが、肥満治療の為には一日のカロリーを必要カロリーの70縲鰀80%(1200縲鰀1800Kcal)にし、バランスのとれた食品を組み合わせることが大切です。そういう献立を作るために、80Kcalを一単位として計算すると便利になります。
食事療法の第一歩
- 一日3食を、夜8時までに。
- 一日30食品を目標に。
- 食事はよく噛んで。(最低30回は咀嚼する)
- おかずは原則個人盛り。
- おやつは週単位で計算。(別表参照)
- 時に羽目を外すのは構わない。
2.運動療法
食事制限による減量は脂肪を減らしますが、同時に筋肉の一部も減らします。
健康的にやせるためには、食事、運動の併用が必要です。運動は交感神経を刺激し、褐色脂肪細胞を刺激し、脂肪燃焼を更に促進します。
運動の目的には以下があります
- 皮下脂肪を減らします。
- 筋肉を増やします。
- 成長を促します。
- 善玉コレステロール(HDL-chol)を増やします。
- 気分を高揚します。
さてどんな運動が望ましいのでしょうか?
基本的には、いわゆるエアロビクス運動と呼ばれる、酸素を一杯使用する運動が望まれます。
当然ですが、本人が喜んでできるスポーツ、運動であれば何でも良いわけです。
(エアロビクス運動とは?)
子供であれば、心拍数が一分間に140回程度が続けば良いことになります。少し汗をかいて、気持ちいい程度になります。この状態が15分以上(できれば30分程度)続く事が求められます。
このルールさえ守れば、歩行、自転車、縄跳び、ラジオ体操、ボール運動、水泳何でもいいわけです。できれば最低週2回を目標に楽しく続けて下さい。
ちなみに運動によるエネルギー消費について、別表に示します。
また筋肉が増えると、受け皿が大きくなるため、脂肪がつきにくい体になります。
3.生活療法
太らないための生活は、「食事」と「運動」が、カギになります。
両者の関係は、車の両輪。どちらがかけても、肥満防止の役目は達成できません。食べ過ぎ、運動不足など、肥満の原因になっている生活を改善しましょう。
- 肥満は脂肪過剰である。
- 体重減量のみにとらわれず、身長とのバランスを意識しよう。
- 一日三食をきちんと、バランスよく
- ご飯はきちんと噛みましょう。(最低30回)
- 夜8時以降の食事はなるべき避けよう。
- 自分のことは自分でしよう。
- 外で遊ぶ習慣もつけよう。
- 家事手伝いは究極のエアロビクス運動、毎日一つは実行しよう。
肥満外来とは
当院では、単純肥満のみと判断された方を対象に、最低月に一回受診して、脂肪量のチェック、肥満指導を実施しています。
モットーは
- 医学的に、楽しく脂肪を減量しよう。
- 体重では無く、脂肪量をフォローする。
- 個性に応じた治療計画をたてる。
- 定期的に確認する。
「継続は力なり」を実践していただくことで、自然な減量を得られるのでは無いでしょうか。経過良好な方は、受診間隔がどんどん開き、一年後受診で良好の人は卒業としています。
全経過最短でも2年かかりますが、既に10名余りの卒業生がいます。
肥満外来
毎月第一、第二の木曜日の午後(変更もあり)
全員予約制。
- 初診(肥満で初めて受診される方)
- 小児科外来あてに、予約のお電話下さい。
- 午後1時から受付、計測、検尿
- 午後1時30分から肥満の話
- 午後2時半から個別診察、続いて栄養指導
- 再診(既に肥満外来受診したことがある人)
- 午後3時から午後4時半まで、10分毎に予約外来
肥満入院治療とは
肥満入院を必要とする人
- 肥満による病気を持っている人
- 入院しても肥満を解消したい人
- 外来治療でも、悪化する人
- 肥満に関連して、不登校に近い状態の人
入院すると、隣の京都府立城陽養護学校に病院から通学することになります。少人数ですので、学業の保障と同時に、運動面等来ていただけます。
病院では、夕方のリハビリと学習がノルマになります。最初の一ヶ月は外泊できませんが、その後は毎週外泊して、家庭での経過も見せていただくことになります。栄養指導が入院中に最低二回はあります。