重症筋無力症
概要
末梢神経 と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)で、筋肉側の受容体が自己抗体により壊される自己免疫疾患です。自己抗体の中では、抗アセチルコリン受容体(AChR)抗体が85%を占め、その他に抗筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK:マスク)抗体のケースが5-10%あります。
症状・特徴
骨格筋の筋力低下で、運動の反復により筋力が低下します(易疲労性)。夕方に症状が増悪する(日内変動)などが特徴です。眼瞼下垂、複視などの眼症状、四肢・頸筋の筋力低下、構音障害、嚥下障害が出現し、重症例では呼吸障害を呈します。
胸腺腫や胸腺過形成などの胸腺異常をしばしば合併します。
増悪因子・クリーゼ(呼吸不全)の原因として、身体的・精神的ストレス、感染症、外科手術、妊娠、浸潤性胸腺腫があげられます。
ガン免疫療法で近年使用される免疫チェックポイント阻害薬は、MGを誘発する可能性がある点に注意が必要です。
検査
エドロフォニウテスト(神経から筋肉の伝達を改善させる薬を静脈注射して、眼や全身の症状改善を観察)、アイステスト(氷水をまぶたに当てて開眼するかを観察)、血液検査(抗アセチルコリン受容体、抗マスク抗体、甲状腺機能)、神経伝導検査(反復刺激検査:手や顔などの筋肉に電極を置いて、繰り返し神経を刺激した時の反応が徐々に小さくなる)、胸部CT(胸腺腫の有無を調べる)を行います。
病型と治療
近年の治療薬の進歩によって、内服・点滴で制御可能なケースが増えてきています。
病型によって以下のように治療します。
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①眼筋型MG(抗体有無や胸腺腫有無は問わず、眼筋に症状が限定し全身症状なし)
☞ 抗コリン剤→少量ステロイド→(胸腺腫摘除)→ステロイドパルス→免疫抑制剤
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②~⑥全身型MG(眼以外にも症状がある)
☞ 少量ステロイド+免疫抑制剤+抗コリン剤の内服
全身型は、病型や症状によって、さらに進めていく治療が以下のように異なります。
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②早期発症MG(AChR抗体陽性 胸腺腫なし 全身型 50歳未満)
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③後期発症MG(AChR抗体陽性 胸腺腫なし 全身型 50歳以上)
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④胸腺腫関連MG(AChR抗体陽性 胸腺腫あり 全身型)
☞ (胸腺腫があれば摘除)→速効性治療【免疫グロブリン、ステロイドパルス、血漿交換、免疫吸着】→分子標的治療薬
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⑤MuSK抗体陽性MG(AChR抗体陰性 全身型)
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⑥抗体陰性MG(AChR抗体陰性・MuSK抗体陰性 全身型)
☞ 速効性治療【免疫グロブリン、ステロイドパルス、血漿交換】→分子標的治療薬
外来点滴でも治療可能な分子標的治療薬としては、エクリツマブ・ラブリズマブ(補体C5抗体)、エフガルチギモド(自己抗体の分解促進)が挙げられます。
参考図書:重症筋無力症診療ガイドライン2022