多発性硬化症・視神経脊髄炎

多発性硬化症・視神経脊髄炎

概要

中枢神経系の自己免疫性脱髄疾患です。その仲間には、
1)多発性硬化症
2)視神経脊髄炎
3)急性散在性脳脊髄炎
4)同心円硬化症
などがあります。中枢神経とは脳(視神経も含みます)と脊髄に存在する神経です。脱髄とは、電気的信号を伝える神経を保護している髄鞘が損傷してしまうことです。すなわち電線を包んでいるビニールの絶縁体が破損して電線がむき出しとなり漏電をおこし信号伝達が障害されることです。例えばコンピューターが有線でプリンターにつながっている時、その線の絶縁体が壊れプリンターがうまく作動しなくなった状態です。
多発性硬化症は、時間的および空間的多発性を特徴とします。時間的多発性とは何度も症状を繰り返すことで、空間的多発性とは複数の障害部位が脳や脊髄に存在することです。硬化症とは障害を受けた組織が正常な組織より硬くなっていることを示しています。

原因

多発性硬化症は、時間的および空間的多発性を特徴とします。時間的多発性とは何度も症状を繰り返すことで、空間的多発性とは複数の障害部位が脳や脊髄に存在することです。硬化症とは障害を受けた組織が正常な組織より硬くなっていることを示しています。

症状

中枢神経の障害で生ずる感覚障害、筋力低下、視力障害、複視、排尿障害、精神症状といった様々な症状を呈します。

診断

  • ・臨床症状
    中枢神経障害に関係する症状であるかを確認します。
  • ・病歴
    これまでも中枢神経障害を起こしていないかを聞き取ります。
  • ・髄液検査
    腰椎穿刺により髄液のIgGやオリゴクローナルバンドの測定をします
  • ・MRI検査
    脳や脊髄の異常を明確に示します。症状と画像の異常が一致するかを確認します。
  • ・誘発電位検査
    視神経炎や脊髄病変の有無を調べるのに用いられます。

多発性硬化症の病型と治療

  • ①再発寛解型 
    急性増悪と緩解が繰り返されるタイプ
    後遺症が残っても症状の持続的増悪や進行はみられない
  • ②一次進行型 
    発症時から症状が徐々に進行するタイプ
  • ③二次進行型 
    再発寛解型として発症後数年経ってから、明らかな再発がないにも関わらず病状が徐々に進行する


急性増悪期はステロイドホルモンの点滴をします(ステロイドパルス療法)。その後はステロイドホルモンの経口剤を短期間使用します。重症例では血漿交換が必要になる場合があります。
再発予防については、病型によって治療が異なります。

  • ①再発緩解型 
    再発頻度・障害度・MRI活動性・脳萎縮の程度で判断します。
    軽症ならインターフェロンβ(注射)、グラチラマー酢酸塩(注射) 、フマル酸ジメチル(内服)、フィンゴリモド(内服)が用いられます。
    重症ならナタリズマブ(月一回点滴)、オファツムマブ(皮下注射)があります。
  • ②一次進行型 
    国内未承認ですが、海外ではオクレリズマブが承認されています。
  • ③二次進行型 
    シポニモド(内服)、オファツムマブ(皮下注射)が用いられます。

臨床経過

一般には再発と寛解を繰り返すことが多いですが、個人差があり様々です。以前に比べて治療の選択肢が増えたため、入院加療が減り、外来通院加療が可能になりつつあります。

視神経脊髄炎

以前から多発性硬化症と似た疾患として主に視神経と脊髄に脱髄を生じる疾患が知られていました。近年これは多発性硬化症とは異なる疾患であることがわかってきました。症状としては主に視神経炎と脊髄炎を呈し、矯正できない強い視力低下、痙性対麻痺でADL低下が特徴です。女性に多く高齢発症もあります。
診断として血液中の自己抗体(抗アクアポリン抗体)の存在と脊髄で3椎体以上長さの異常の存在が用いられています。急性期にはステロイドパルス(大量点滴)、再発予防はステロイドや免疫抑制剤の内服で可能ですが、ステロイド長期内服に伴う副作用として、糖尿病・高血圧・骨粗しょう症などに注意が必要です。
近年、種々の抗体療法により再発率を劇的に抑えられるようになってきました。神経の炎症に関わる補体、サイトカイン、リンパ球に対する以下の抗体が再発予防に用いられるようになっています。
*エクリツマブ、ラブリズマブ(補体C5抗体 点滴)
*サトラリズマブ(IL-6受容体抗体 皮下注射)
*イネビリズマブ(CD19抗体 点滴)
*リツキシマブ(CD20抗体 点滴