4.筋萎縮性側索硬化症このページを印刷する - 4.筋萎縮性側索硬化症

筋萎縮性側索硬化症はALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)とも呼ばれ、アメリカではこの病気に罹った野球選手の名前よりルー・ゲーリック病として知られています。この疾患は、身体を動かす神経系が次第に壊れ(変性)自分の意思では体を動かすのが困難となる病気です。始めに、我々が身体を動かす仕組みを説明します。自分の意思で手足口などの筋肉を動かすためには、まず大脳の運動神経細胞(上位運動ニューロン)が指令を出します。その神経細胞は、口などでは脳幹、手足では脊髄まで伸びており、それぞれ脳幹・脊髄に存在する次の神経細胞(下位運動ニューロン)に筋肉を動かすための信号を受け渡します。下位運動ニューロンは実際に動かすべき筋肉にまで伸びており、伝わった信号を用いて筋肉を収縮させます。すなわち、2つの神経がリレーして、脳から最終目的地である筋肉に動かすための信号を送ります。筋萎縮性側索硬化症では、その2つの神経(上位運動ニューロンと下位運動ニューロン)両者が徐々に壊れていくのですが、その原因が未だよく分かってはいません。
有病率は、10万人に約7人で、男性に約1.5倍多くみられます。発症年齢は40歳以降が多く、50-70歳にピークが見られます。最近では高齢化に伴い、80歳以降の発症も多く見られるようになりました。約90%が遺伝とは無関係な孤発発症ですが、家族性筋萎縮性側索硬化症も約10%に見られ、いくつかの原因遺伝子が発見されています。

(上位・下位ニューロンの図)
LTTプログラム委員会: ALS/ LIVE TODAY FOR TOMORROW

古典型ALSと呼ばれるタイプでは、片方の上肢の筋力低下と筋肉の萎縮から始まり、次にもう一方の上肢に症状が現れ、さらに両下肢へと広がります。その間に飲み込み難さ(嚥下障害)、呼吸筋麻痺が進みます。古典型以外にも、嚥下障害から始まるタイプ、両下肢から始まるタイプがあります。ある種の遺伝子異常を伴ったタイプでは認知症を合併するものもあります。また、筋力低下と萎縮が進行していく過程で、筋肉にピクつきを感じる事があります。
手足などの自分の意思で動かせる筋肉(随意筋)では症状が進む一方で、心臓の筋肉、胃腸などの自分の意思で動かせない筋肉(不随意筋)の障害は認められません。また、末期に至るまで障害されにくく、陰性症状とよばれるものに、眼を動かす筋肉(外眼筋)の障害、尿・便をためるための括約筋の障害、感覚の障害があります。また、床ずれも起こりにくいとされています。基本的には、認知機能も保たれるので、運動機能だけが選択的に障害される疾患と言えます。
これらの症状は、1-3年で進行し、起立不能となり、嚥下障害による栄養摂取・水分摂取の困難、呼吸筋麻痺による呼吸困難が生じることとなります。


ALSに特異的な診断法は確立されていないため、①症状(診察所見)、②筋電図検査、③画像検査、④他の疾患の除外 に基づいて総合的に判断されます。その中でも、筋電図検査によって認められる、持続的な急性の神経変性所見(運動神経の細胞に障害を反映している)は、極めて重要な所見です。筋電図検査は、しびれや筋力低下を生じる神経疾患でしばしば行われる検査で、①手足を走行する神経線維に弱い電流を流して、脳からの信号を手足の筋肉に伝える電線の役割を担う末梢神経や、②細い針を筋肉に刺して筋肉の電気活動を直接調べることによって筋肉、神経の障害を調べる検査です。
また、有効な治療法が確立している他の疾患を除外することが、何よりも重要となります。そのために、髄液検査や神経・筋生検等の検査が行われることがあります。

 

リルゾールという薬剤が使用されており、約3ヶ月の延命効果があるとされております。その作用機序は、神経に対し毒性があるといわれるグルタミン酸の阻害などを介して神経細胞の保護作用を発揮し、ALSの進行を遅らせると考えられています。
しかし、ALSの進行を完全に止めたり、改善させる治療法は現在のところ確立されていないため、筋力低下により生じる様々な問題点に対する補助療法、緩和療法、コミュニケーションツールの導入等が重要になります。
ALSでは、食物を噛んだり、飲み込んだりするために必要な舌・のどの筋肉の筋力も徐々に低下するため、次第に十分な栄養、水分を口から摂ることが困難となってきます。一方、栄養吸収に必要な消化管機能は保たれるため、腹部表面と胃を直接チューブでつなぎそこから点滴のように流動食を注入する「胃瘻」という方法によって栄養・水分摂取を維持することが可能です。
さらに重要な問題として呼吸筋麻痺による呼吸困難があります。ALSでは、肺自体には異常は有りませんが、息を吸っては吐くという運動が困難となってきます。そのため、麻痺による呼吸困難を解決するには、人工呼吸器による呼吸運動のサポートが必要となってきます。人工呼吸器は大きく分けると「非侵襲的人工呼吸器」と「侵襲的人工呼吸器」の2つに分類することが出来ます。非侵襲的人工呼吸器はマスク型の人工呼吸器で気管切開などの処置を必要とせず、症状の軽い間は夜間のみ使用するなど付けたり外したりが簡単にできるタイプの人工呼吸器です。このタイプの利点は、声による会話が可能であること、自分の力で痰が出せ異物を気管内に入れないため人工呼吸器に伴う肺炎の危険性を低く抑えることが可能である等が挙げられます(症状によっては、このタイプの人工呼吸器を使用できない方もおられます)。このように利点の多い非侵襲的人工呼吸器ですが、症状の進行により呼吸筋の筋力低下がさらに進むと、このタイプの人工呼吸器では十分な換気や痰を排出することが困難となり、「侵襲的人工呼吸器」が必要となってきます。その場合には、喉に小さな穴を開け肺への通路である気管に人工呼吸器と接続するためのチューブを直接挿入することになります。殆どの場合、声を出すことは不可能となり、音声に替わるコミュニケーション法が必要となります。
また、このように変化していく症状に伴う苦痛に対する緩和処置や、適切なコミュニケーション法の選択・導入も、生活の質を向上させるために重要な治療です。

以上に挙げた「胃瘻」、「非侵襲的人工呼吸器」、「侵襲的人工呼吸器」等の補助療法は、患者さんの生き方を左右する重大な問題です。一律に行うものではなく、各々患者さんご自身が自らの生き方を考え、ご家族と共に十分に検討したうえで、何を望み何を望まないのかを選択し、しっかりサポート体制を整えて導入していくことが大切なことは言うまでもありません。

コンピュータを用いたコミュニケーションツールの一例
(伝の心)



ALSでみられる筋力低下や筋萎縮は、加齢による力の衰えとは異なり、筋力トレーニング等では回復しません。そればかりか、過度のリハビリテーションは残っている筋肉自体を痛めてしまい、さらに運動機能の低下を招いてしまう危険性があります。もちろん、正しい方法で行うリハビリテーションは運動機能の維持に非常に重要なので、主治医やリハビリテーション担当者等の専門家からの指導の下、行うように心掛けて下さい。


当院神経内科では、ALSの診断だけに終わるのではなく、症状の進行度に併せて必要な治療を、患者さん・ご家族と相談しながら決定し行っています。また、熟練したスタッフを持つ当院の呼吸器科と連携し、必要に応じて安全に非侵襲的人工呼吸器、侵襲的人工呼吸器を導入し、在宅介護への移行を支援しております。京都府ではALSを含む神経難病を対象に、在宅介護を行っている介護者の休息(レスパイト)を目的とした一時入院事業(レスパイト入院:年間60日まで)を行っており、当院もこの事業に参加しております。
また、当院は神経難病専門病棟をもち、ALSを熟知したスタッフによるケアを提供しております。加えて、入院及び外来患者さんを対象に、理学療法士、作業療法士、言語療法士による個々の症状に応じたリハビリテーションを行っております。特にコミュニケーションツールは、患者さんの意思を伝える重要な手段ですので、オーダーメイドの対応に努めております。

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