脊髄小脳変性症
概要
脊髄小脳変性症(Spinocerebellar Degeneration;SCD)は、主に小脳や脊髄などに異常が生じ、機能が徐々に低下する進行性の神経変性疾患です。体のバランスを保つことが難しくなり、手足の動きにくさや、ろれつが回りにくい症状が現れます。
有病率は、人口10万人あたり20人弱と推定されており、その約3分の1は遺伝性で、残り約3分の2は遺伝に関係しない孤発性です。遺伝性の多くで、原因遺伝子内に特定の塩基配列を繰り返す部分が異常に長くなることで発症することが知られています。
本邦では、脊髄小脳失調症6型、31型、マシャド・ジョセフ病、歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)の4つが、遺伝性の6~7割を占めます。前者二つは小脳性運動失調を主とする純粋小脳型に、後者二つは小脳失調以外(パーキンソン症状、認知機能障害など)を合併する多系統障害型に分類されます。
症状
歩行が不安定になり転倒しやすくなる、手足の細かい動作が難しくなる、発声や言語が不明瞭になる、食物を飲み込みにくくなる、眼球が揺れて視点が定まりにくくなる、といった運動失調症状が主にみられます。
診断
神経学的な診察により、運動機能や協調運動の異常を確認します。MRIやCTで小脳や脊髄の萎縮を確認します。脳血流シンチグラフィ小脳血流の低下を検出することも診断に役立ちます。また、CTで小脳や脊髄の萎縮を確認します。神経伝導検査、誘発電位検査で、末梢神経や脊髄の障害を評価します。さらに、二次性運動失調症を除外するために、血液検査・髄液検査を行います。
遺伝的要因が疑われる場合、特定の遺伝子検査(血液検査)を行います。遺伝子検査は患者さんの自発的意思に基づいて行われ、ご希望があれば遺伝子カウンセリングを提供している病院をご紹介します。
治療
現時点では根本的な治療法はありませんが、症状を軽減して生活の質を維持するために薬物療法やリハビリテーションが行われます。運動失調には、注射薬であるプロチレリン酒石酸(ヒルトニン®)や、内服薬であるタルチレリン水和物(セレジスト®)が使用されます。筋肉の突っ張り(痙縮)には、筋弛緩薬や抗痙縮薬を内服します。また、集中的な理学療法により、バランスや歩行の改善を図ります。
社会生活・日常生活での注意点
病気の進行に伴い日常生活での介護が必要になる場合がありますので、介護保険の申請が推奨されます。また、生活の質を維持するために、移動補助具や福祉機器を利用するなど福祉サービスを活用します。転倒の予防には、床の滑りやすい場所や段差に注意し、適切な靴や杖の使用が推奨されます。嚥下障害がある場合には、誤嚥を防ぐために柔らかい食事や正しい姿勢での食事を心がけましょう。