筋ジストロフィー・ミオパチー

筋ジストロフィー・ミオパチー

概要

 ミオパチーの概念・分類・原因


筋肉に主たる病変が見られる病気を、ひろくミオパチーと呼びます。その原因には様々なものがあり、遺伝子異常を基礎として遺伝する可能性があるものと、後天性で遺伝子異常を必ずしも伴わないものがあります。
遺伝性ミオパチーの代表は筋ジストロフィー・先天性ミオパチー・先天性筋強直症・代謝性ミオパチーが含まれます。
後天性(遺伝子異常を必ずしも伴わないもの)には、炎症性ミオパチー・中毒性ないし薬剤性ミオパチー・後天性の代謝性ミオパチーがあります。

 筋ジストロフィーの概念


分かりにくい言葉ですので、少しずつ説明していきます。
まず、遺伝子とはなにか、それが変異するとはどういうことか、からご説明申し上げます。
ヒトの体を構成するにはタンパク質が重要ですが、このタンパク質の設計図(どのように組み立てるかを記載したもの)が遺伝子です。
この設計図の構成要素(核酸と呼ばれる物質です)が変化することを「変異」あるいは遺伝子変異と呼びます。私たちの想像以上にこの変異は起きるけれど殆どは修復され、その修復をくぐり抜けたものも多くは無害なのだそうです。そのうちのごく一部が病気を引き起こすとされています。筋ジストロフィーや先天性ミオパチーはこの遺伝子変異により筋肉に障害が出て発症すると考えられています。
次に「ジストロフィー」という言葉をご説明申し上げます。
もともとの語源はギリシャ語にあり、dys(うまくいかない・異常な) + trophy(栄養あるいは育つ)というところから作られたことばで、「もともとの想定どおりに育てられない、あるいは、維持できない」状態を意味していると考えればよいと思います。
設計図の異常が存在するために、筋肉を構成するタンパク質が想定されるように作られないため、筋肉の機能や構造がうまく行かない状態になってしまう病気と考えればよいと思います。
分類をまとめると次のようになります、例にはごく一部を示しており、これに限るものではありません。
原因についても一部ではごく簡単に記載します:

後天性(遺伝子異常が根本原因でないもの)
 ├── 炎症性ミオパチー・・・行き過ぎた免疫活動が筋肉を攻撃するもの
 │   例)免疫介在性壊死性ミオパチー、「皮膚筋炎」、壊死性ミオパチーなど 封入体筋炎も含められることがあります
 ├── 内分泌性ミオパチー・・・ホルモン異常が筋障害を引き起こすもの
 │   例)甲状腺機能低下症、クッシング症候群などをベースとするもの
 ├── 中毒性または薬剤性ミオパチー・・・薬剤・アルコールなどによって筋障害が引き起こされるもの
 │   例)スタチン関連筋症状、ステロイドミオパチー
 └── 代謝性ミオパチー(後天性のもの)・・・電解質(ミネラル)異常・栄養障害などにより引き起こされるもの
    例)低カリウム血症、低マグネシウム血症

先天性(遺伝子異常が基本的原因であるもの)
 ├── 筋ジストロフィー・・・筋の細胞膜ないしその周辺のタンパクの異常による
 │  例)Duchenne型、Becker型、肢帯型など
 ├── 先天性ミオパチー・・・筋の収縮タンパクなどの問題
 │  例)ネマリンミオパチーなど
 ├── 筋チャネル病 ・・・筋肉の電気系統異常による過収縮
 └── 代謝性ミオパチー(遺伝性)・・・筋肉内でエネルギーを産生する機構の障害
    例)糖原病(Pompe病)、ミトコンドリアミオパチー

症状

いずれの病型でも、筋肉のやせ(筋萎縮と呼ばれます)や、力が入らない(脱力と呼ばれます)を引き起こします。多くの場合には四肢の付け根に近いところ(大腿・上腕・肩甲帯)で脱力を起こしやすいので、膝をもちあげて歩くのが難しい・髪を洗いにくい・高い棚に手が届かない・重たいものを持ち上げにくい、といった症状で気づかれ、病院へご相談にお見えになることが多いようです。
遺伝性だと、比較的若いうちに起こりやすいですが、全例が若年で発症するわけではなく、比較的年齢を重ねるまで気づかれずに日常生活をなんとか送る方もいらっしゃいます。
なお病気が進行すると、筋肉の障害のために飲み込みの悪さや呼吸がしづらいといった症状へもつながることが起こりえます。これらが生命維持に影響しうるために、後ほど治療のところで述べるような胃瘻や呼吸管理といった積極的な介入が必要となって、日常生活に大きな影響がみられるようになる方がおられます。

診断

お困りの症状について、始まり方・推移を問診でお伺いして筋肉の障害を起こしていることを確認することと、力の入らない部位がどのように分布していて筋疾患と考えて妥当かどうかを、診察の過程で判断することが大変重要です。検査として診断を補助する目的で行われるものには、 MRI超音波検査といった画像検査、 筋電図検査 (筋肉に針を差して電気信号を得てこれを解析する検査)が含まれます。内科的基礎疾患(上記で述べた甲状腺などのホルモン異常)がないかどうかを確認するためと、筋肉が実際に壊れているときに異常となる項目の数値を検討するために採血が行われます。遺伝子異常が決定できる疾患が疑われれば、これを確認するために採血などを行うこともあります。最近ではごく限られた例になりましたが、皮膚を局所麻酔で切開し(傷は数cm程度残ります)、筋肉の一部を切り出して顕微鏡で検討する筋生検という検査が必要になることもあります。呼吸の能力を吟味することを目的として、 肺機能検査 (肺活量などを検討する検査です)を行うことや、夜間の呼吸状態を検索するために、入院が必要となることもあります。飲み込み(嚥下)の状態を検討する目的で嚥下内視鏡という検査が行われることもあります。

治療

後天性のものではそれを起こした原因に対処することが治療となります。例えばホルモン異常であればこれを是正することでかなり症状が改善することが普通です。また免疫異常に基づくものでは免疫抑制剤・ガンマグロブリン製剤・ステロイド製剤の投与(点滴あるいは内服)が行われることもあります。遺伝子異常の多くはまだ根本治療が難しいですが、最近では遺伝子異常を是正する治療も行われるようになった病型もあります。例えばジストロフィン異常症の一部における点滴治療が功を奏する例もあります。
筋力低下を伴う他の疾患と同様に、適切なリハビリテーションを継続的に行うことは、よりよい日常生活を長く送っていくうえで、とても重要です。
症状のところで述べたように、飲み込み(嚥下)や呼吸が悪くなってきたときには、他の神経疾患と同様、胃瘻造設や人工呼吸器を用いたサポートが必要になることもあります(ALSのページをご参照ください)。主治医とよく相談しながら導入するかしないか、いつ行うかについて継続的に検討していくことが重要です。

最後に

「筋ジストロフィー」と診断されてショックを受けたという患者さんもおられるかもしれません。しかし見方によっては、医療の発展が患者さんの寿命延長に最も寄与してきた疾患と考える見方もあります。
(この疾患に限りませんが)治療方針は、患者さんご本人の状況も重要ですが、それのみならず家族や取り巻く環境に大きく影響されるので、「正解」がなかなか一つにはまとめきれないことも多いと思います。より良い過ごし方を確立するために、多数の関係する人々と(悩みながら)よく相談しつつ進めていくことが大変重要と思われます