アルツハイマー病四方山話-1
(この記事は「重松神経内科医長」に院内報のために14回にわけて掲載させていただきましたものに若干の加筆訂正してまとめたものです)
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第1話
えっーと、さて何をしようとしていたのだっけ:なんて物忘れの経験はありませんか。あまり続くとそろそろかなあって。まあ惚けてしまったら本人は幸せだろうという人もありますよね。でも思いだせないっていうのは辛いから、痴呆症もきっとしんどい病気だろうと思うんです。勿論物忘れだけでは痴呆と限りませんから、心配いりません、多分。さてその痴呆症を起こす病気の代表がアルツハイマー病です。最近では新聞やテレビでもよく取り上げられるお馴染みの病気。アメリカではレーガン元大統領が、自分がアルツハイマー病に罹っていると発表されて一躍有名になりました。実際とても多い病気で、痴呆の半分以上を占めるだろうと考えられています。歴史的には、65歳より若い人の病気として見つけられました。アルツハイマーというのは発見したドイツの神経内科医の名前です。そのため65歳以上の老年痴呆と区別されていたのですが、研究が進むにつれてその二つが同じ病気であることや、むしろ高齢になる程増えてくることが分かってきました。85歳位になると3人に1人がこの病気に罹るとも言われています。症状はゆっくりと進む痴呆で、診察やCT、それに脳の血流を測るSPECTという検査などで大抵の場合診断がつきます。
病気の原因についてお話しましょう。と言っても原因はまだ分かっていないので、見つけるとノーベル賞です。さあ頑張って探して見ませんか。ヒントはあります。まず病気の脳には大きな変化が見られます。それは老人斑と原線維変化の2つです。老人斑というのは脳細胞の外に出来るシミのようなもので、原線維変化というのは脳細胞の中に線維の屑がとぐろを巻くように貯まってくる変化を指します。この二つが揃うとこの病気と診断されるくらい特徴的なので、病気の原因を解く鍵と考えられています。
そこで原因の第一候補はこの老人斑主犯説です。老人斑はアミロイドと呼ばれる物質から出来ているのでアミロイド斑とも呼ばれています。このアミロイドはアミロイド前駆蛋白(APP)が分解されて出来ることが分かりました。APPは誰にでもあるのですが、健康な人ではアミロイドが出来ないように分解されるのに、病気になるとそれがうまく行かなくなるのだろうと考えられます。まずAPP自体に異常があってうまく分解されなくなり、アミロイドが貯まることが考えられます。事実、最近APPの遺伝子異常からアルツハイマー病になる家系が発見されました。APPの遺伝子が1.5倍あるダウン症の方がアルツハイマー病に罹りやすいことからも、この遺伝子が病気の原因と関係がありそうです。一方、分解するのは酵素でこれも遺伝子から作られます。ですからこの酵素に異常があってもAPPを正しく分解することが出来なくなってアミロイドが出来るはずです。この酵素異常、つまりは遺伝子異常を探している研究者も大勢います。どちらの場合にせよAPPがうまく分解されずにアミロイドが作られ、それが貯まって老人斑が出来てそれが脳細胞を壊してアルツハイマー病になる、という考え方です。ただほとんどのアルツハイマー病は遺伝しませんし、従って遺伝子異常は見つかっていません。もちろん狂牛病のように感染したりもしません。
(この次はもっと私達の身近にいる`容疑者`を紹介しようと思います:もし忘れなければ!ですけれど)