アルツハイマー病四方山話-2
(この記事は「重松神経内科医長」に院内報のために14回にわけて掲載させていただきましたものに若干の加筆訂正してまとめたものです)
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第2話
[アルツハイマー病の原因探し:前回は第一候補として老人斑が出来る遺伝子異常について紹介しました。今日は、もっと身近な容疑者です。]
第二候補はアルミニウムです。アルミニウムのお鍋使っていませんか?ひょっとするとこのアルミニウムが原因かも知れない、と考える人がいます。勿論証明はされていませんので、あわてて捨てないで下さいネ、念のため。理由は幾つかあります。アルミニウムはこの地球で最も多い金属です。どこの川の水にも含まれているのですが、アルミニウムの濃度の濃い川の流域では、幾つかの神経の病気が多いらしいことが古くから指摘されていました。以前の透析治療では、アルミニウムが体に貯まることがあったのですが、その際痴呆症を起こすことがありました。それがアルミニウムと痴呆症の関連が疑われるきっかけになりました。そこで、アルツハイマー病の患者さんの脳が調べられたのですが、驚くべきことに事実アルミニウムが貯まっていたのです。しかもこのアルミニウムの蓄積は脳の中でも病変の強い部分に一致していることが報告されて、一躍注目されるようになりました。脳の中でも、特に原線維変化の部位にアルミニウムの蓄積があることが重要だったのです。と言うのも、実験的にアルミニウムが原線維変化を引き起こすことが知られていたからです。その場合は、何故かネズミでは上手くいかずにウサギで実験しないといけないのですが、ウサギの脳にアルミニウムを注射すると原線維変化(全く同じではないのですが)が出来るのです。同じことは、試験管の中でも確認されています(神経培養と言って、ガラスの器の中で神経細胞を育てることが出来ます。そこにアルミニウムの溶液を加えると現線維変化が生じます)。つまり、アルミニウムは原線維変化を起こす作用があって、しかも実際のアルツハイマー病の脳の中でアルミニウムが原線維変化を作っている可能性が高いと言うことになります。さらに、これは私達がネズミの脳で調べたのですが、脳の中にアルミニウムを注射するとAPP(老人斑の元になる蛋白質)が貯まってくることも解っています。そういった研究成果から、アルミニウムは、現在最も有力な容疑者の一つになっています。そしてアメリカの大学病院などで、アルツハイマー病の患者さんにアルミニウムを減らす薬を飲んでもらう治療研究が実際に行われています。最近、薬が効いたという報告も幾つかでてきました。アルツハイマー病ではないのですが、体に銅が貯まる病気があって、同様の薬で治療されていますので、こう言った治療も有望かも知れません。勿論このアルミニウム原因説には反対する研究者も沢山います(数から言えば反対の方が多い感じです)。アルミニウム説は研究者によって凄く好き嫌い?が強くて、巨人ファンとアンチ巨人ファンみたいな感じになっています(それ以上かな)。さて皆さんはアルミの食器どうされますか?
(アルミ説、如何でしたか?アルミと言えば一円玉、なかなか崩せませんね。次回は別の有力な容疑者を2つ紹介する予定です)