アルツハイマー病四方山話-12
(この記事は「重松神経内科医長」に院内報のために14回にわけて掲載させていただきましたものに若干の加筆訂正してまとめたものです)
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第12話
[前回までのあらすじ:治る為の再生、その第一番手はくっつくこと。脳のネットワークが修復できるかどうか]
脳(のネットワーク)は一度切れたらつながらない、とお話しました。でもこれは哺乳類の話。例えば魚類や両生類(彼らも脊椎動物だから、脳や脊髄はちゃんとあります)ではくっつくことが知られています。ネズミは哺乳類。その意味でヒトと同じなので、医学の研究ではよく使われています。マーチン・シュワッブというスイスの研究者がこのネズミの脳の再生に世界で初めて成功しました。少し難しいかも知れませんが、脳の治療に道を開いた研究ですので、かい摘んで紹介しましょう。考え方は前回お話しした通りです。つまり、脳は再生しないのに末梢神経は再生する。だから脳と末梢神経の違いにヒントがあるはずです。そこで”違い”を探したのですが、それは神経の鞘(さや)にありました。つまり鞘を作っている細胞が違うのです。それは、脳ではオリゴデンドログリア、末梢神経ではシュワン細胞と呼ばれています。シュワッブ博士はこのオリゴデンドログリアが犯人だろうと考えました。そして二つの方法でこのグリアを退治しようとしました。その一つは放射線、そしてもう一つは抗体(ワクチンみたいな感じ)です。リサ(イタリアからの留学生)と博士はネズミで実験したのですが、この方法がどちらもうまく行きました。つまり、脳に切れ目を入れてから放射線を当てたり、抗体を作り出す腫瘍を移植したりしてオリゴデンドログリアを壊すと切れた脳のネットワークが一部再生したと報告しました。この発表は神経内科の分野ではもうダイダイ大ニュースで、世界中がビックリしました。アメリカなどにおける研究費は、賞金の様な性格を持っているのですが、翌年の研究費は彼の研究室がダントツ(イチローみたい)だったんです。ただこの成功は今の所このネズミだけで、ヒトを含めた霊長類ではうまく行っていません。くっつく再生についてはこれでおしまいです。次回は細胞が増えるかどうか、つまり縮んだ脳がまた膨らむかどうかのお話。