アルツハイマー病四方山話-11
(この記事は「重松神経内科医長」に院内報のために14回にわけて掲載させていただきましたものに若干の加筆訂正してまとめたものです)
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第11話
[前回までのあらすじ:治る為には{再生}が肝心(腎)です。再生を2つに分けて考えました。くっつく再生と、元の大きさに戻る再生。]
割れたものが張り合わされる、ちょんぎれたものがつながる、この再生についてお話ししましょう。医学用語で脳のことを中枢神経系と呼ぶことがありますが、この中枢神経系には脊髄が含まれます。再生を考える時には脊髄の方が分かりやすいかもしれません。つまり脊髄損傷をどうやって治すか、もっと言えばちょんぎれた脊髄をどうやってつなぐかという問題です。脳は丸いからイメージが違うけれど同じことです。脳も神経細胞で出来ています。その神経細胞は長ーい突起を持っていて、それを軸索と呼びます。その軸索はまた別の神経細胞と連絡していて、(その連絡場所をシナプスと言うのですが、)いわばネットワークをつくっています。つまり、脳は神経細胞のネットワークの塊なのです。だから脳に傷が付くということは、このネットワークがちょんぎられることにほかなりません。そのネットワークのケーブルにあたるのが軸索です。軸索が切断された時に、もう一度伸びて元に戻れば治る、つまり再生する。トカゲの尻尾が生えてくるように神経の軸索がまた生えてくるかどうかの問題です。前回、脳は再生しない、つまり、軸索は生えてこないことをお話ししました。此処からが研究です。まずどうして生えてこないのか;その原因を考えるのが第一歩。再生する能力が無いのか、別の理由で再生しないのか。。指の神経は再生する、つまり切れてもつながるとお話ししました。指の神経の軸索が再生するのですから、脳の神経の軸索だって再生する能力自体はありそうです。というのも、指の神経も、その根っこ、つまり神経細胞体は脊髄の中にあって、つまり「脳の神経」と同じだからです。同じ神経の軸索なのに、指では再生し、脳では再生しない。どうやら再生する能力はあるのに、脳の中ではその能力が発揮できていないようです。そこで、脳の神経細胞を採ってきて試験管の中で培養してみました。すると神経突起を伸ばしていったのです。やはり再生能力自体はありました。環境によってその能力が発揮できたり出来なかったりするようです。そこで再生神経突起の先に、指の神経を置いてみました。すると神経突起は勢いよく伸びていきました。ところが 指の神経の代わりに脳の切片を置いてみると、突起の伸びがそこでピタッと止まったのです。イメージできますか;神経突起の再生が、指では促進され、脳では阻害されるんです。そう、神経細胞には突起、即ち軸索を伸ばす能力がある。ところが脳の中ではその能力を発揮できない。つまり脳の中に再生を邪魔する何かがあるのです。この”何か”を見つけて、それを押さえ込むことができたら、”再生”できそうです。
脳の中のこの”何か”を見つけて退治できれば間違いなくノーベル賞です。それこそ脊髄損傷やアルツハイマー病を含めた多くの脳の病気の治療に道を開くことになるのですから。この”何か”は残念ながらヒトではまだ見つかっていません。ところが何とネズミで見つけたと名乗りを上げた研究者がいるんです。次回はその紹介から。