アルツハイマー病四方山話-14
(この記事は「重松神経内科医長」に院内報のために14回にわけて掲載させていただきましたものに若干の加筆訂正してまとめたものです)
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第14話
「脳移植のお話、そして脳の世紀に向けて」
アルツハイマー病になったら健康な脳と取り替えたらいいかもしれない、つまり脳移植。でも少し変ですね。第一健康な脳は脳死でないから、脳死移植はできません(これはジョークですよ)。というより、脳全体の移植は詰まるところ体全体(脳以外の、つまり首から下の)の移植なんですよね。主体は脳なのですから。
一方、脳の一部分の移植というとぐっと現実味を帯びてきます。パーキンソン病では中脳の脳細胞が減ってくるので、その脳細胞を移植しようとする手術が実際に行われてきました。アルツハイマー病でも、コリンを作る脳細胞が減るので、それを移植したらどうだろう、という考え方は古くからあるんです。最近の遺伝子工学で特定の蛋白質を作る細胞を作ることが出来るので、それを移植しようという試みも既に報告されています。筋ジストロフィー症の遺伝子治療もまもなくヒトで始まります(因みに北米では10年ほど前から行われています)。ただここで大切なことが一つあります。何回かお話ししてきたように、脳の線維連絡は原則として再生しないという点です。つまり、脳細胞や脳のかけらを移植したとしても線維連絡が出来るわけではありません。一方、脳移植について都合がよいこともあります。脳移植では拒絶反応があまり起きないといわれています。肝臓、心臓、腎移植のどれを受けても免疫抑制剤を飲まなければなりませんが、脳移植ではこの必要がありません。
さて、90年代は脳の10年と呼ばれてきました。アメリカでは、今度は脳の世紀だと云っています。科学の進歩には目覚ましいものがありますし、脳に関しても、もっともっと色々なことが解ってくるに違いありません。脳が脳をどこまで理解できるか、楽しみですね。医療に携わる仲間としてこれからも一緒に学んで行きましょう。(おしまい)
おまけ:アルミニウムのお鍋のお話
全ての調理、取り扱い、保存にアルミ製品を用いてもアルミニウムの摂取量は一日3.5mg以下とされています。これは私たちが普段摂取しているアルミニウム量に比べてもごく僅かなので、アルミのお鍋は心配ありません、とのこと(アルミニウム連盟など)。