アルツハイマー病四方山話-10
(この記事は「重松神経内科医長」に院内報のために14回にわけて掲載させていただきましたものに若干の加筆訂正してまとめたものです)
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第10話
[前回までのあらすじ:アルツハイマー病の原因を色々考えてきました。治療には予防が第一ですが原因が解っていない現状では難しそうです]
今日は脳の再生のお話。
病気になってから治す、これが治療なのですが、脳の病気ではそれがとても大変です。と言う一番の理由は、脳が再生しないからです。怪我をしても傷がふさがっていつの間にか治るでしょう、あれが再生。脳の傷はこんな風には治りません。再生能力がないからです。<再生>にはいくつかの意味があります。指を切っちゃったらもう生えてこない。これは再生しないから。でも指はちょんぎれても、直ぐに上手に手術できればまたくっつくし、動くようにもなる。これは再生。骨も皮膚も神経もまたちゃんとつながるから。骨も皮膚も神経もくっついてつながる、つまり再生するのです。ところが脳はくっつけてもつながりません。脳はとても精密な回路で出来ています。だから切れるとつながらない。CDを割って糊で張り合わせても、もうモーツアルトが聞けないのと同じです。この切れてもつながるのが一つ目の再生。もう一つの再生は細胞が増えること。例えば、肝臓だと、半分くらいとって小さくなっても、時間がたつと細胞分裂して、また元の大きさにもどることができます。これは凄い再生能力。胃潰瘍で胃の粘膜に穴があいてもやっぱり細胞が増えて穴がふさがるでしょう。このように細胞が分裂して増えること、これが二つ目の再生です。脳にはこの”再生”能力もない。つまり細胞分裂しない。細胞が減っても、増えて元に戻ることはありません。言い換えれば、脳細胞は大人になってからは減る一方なのです。
つまり、再生には大きく分けて2種類があります。切れた線がつながるという再生と、細胞分裂して新しい細胞が生まれるという再生、この2種類。私たちの脳はこのどちらの再生も出来ません。アルツハイマー病では神経細胞が減ってしまうし、恐らく線維連絡も切れてしまう。だから治療には再生が必要です。その再生が無いというのですから、アルツハイマー病が治らない、ということになるのです。脳の病気にはいわゆる難病が多いのですがその一番の理由が、この<脳は再生しない>ことです。じゃあ治る希望が無いかと言えば、ところがどっこい、何とかなりそうな所まで来つつあります。そこで次回は、最新の研究成果を紹介しましょう。