アルツハイマー病四方山話-4
(この記事は「重松神経内科医長」に院内報のために14回にわけて掲載させていただきましたものに若干の加筆訂正してまとめたものです)
第1話 | 第2話 | 第3話 | 第4話 | 第5話 |
第6話 | 第7話 | 第8話 | 第9話 | 第10話 |
第11話 | 第12話 | 第13話 | 第14話 |
第4話
[前回までのあらすじ:アルツハイマー病の原因として3つの考え方を紹介しました:遺伝子、アルミニウム、そして炎症。今日の候補は少し痛い?お話]
アルツハイマー病の原因:第四候補は外傷です。ボクサーの病気としては、前々回のアトランタオリンピックの聖火リレーで最終ランナーとなったアリ(キャシアスクレイ)のパーキンソン病が有名ですが、統計的な研究からは頭の外傷はむしろアルツハイマー病の危険因子と言われています。危険因子というのは、病気に罹りやすくなる要素のことで、例えば高血圧や高コレステロール血症は脳梗塞や心筋梗塞の危険因子です。頭部に打撲などの外傷を受けるとアルツハイマー病に罹りやすくなる、と言うわけです。病理的研究でも、ボクサーだった方の脳に老人斑が多いそうです。でも何故そうなのかは解っていません。随分前のことですが、カナダの大学でサルの脳に電極をさして、てんかんの研究がされていたことがあります。動物愛護運動の高まりから、そう言った研究が出来なくなったために、その実験は終了する事になったのですが、お陰で、そのサルの脳を調べる機会がありました。電極は細い針なので、脳は細い針で``外傷``を受けたことになります。そこでその傷の場所を詳しく調べたのですが、確かにAPP(老人斑の元になる蛋白でしたね)が貯まっていることが解りました(でも現線維変化や老人斑は見つかりませんでした)。
脳梗塞は外傷ではありませんが、脳の一部が壊されると言う点では、外傷とも共通点があります。その脳梗塞などでもAPPが貯まることがあります。脳の傷は老人斑の原因なのかも知れません。取りあえず頭は叩かれない方が良さそうです。この頃は学校の先生が体罰を加えたりすると新聞沙汰ですが、僕のいた小学校ではは、まだ鞭や竹刀が実在していました。因みに、クラスの名前も今の1組2組やABCではなくて、忠組、孝組、文組、明組、節組、操組でした。最近物忘れが目立つのはあの時の竹刀のせいかなあ。
以上、代表的な四つの考え方を紹介しましたが、皆さんは真犯人をどう推理されるでしょうか。「クイズ日本人の質問」みたいですが、4つのうち3つがウソ、と言うのではありません。本当にまだ答えは解っていないし、四説とも真剣に取り組んでいる“博士”が大勢います。でもアルミの鍋を捨て、アスピリンを飲んで、ヘルメットをかぶりながら暮らすのはなかなか大変ですね。この他にも幾つかの有力な原因候補があるのですが、ここでは省略します。また、正確であるように心がけていますが、解りやすいことを一番にと考えて、例外や反論の多くを割愛していることをお断りしておきます。またいいアイデアがあったらそっと教えて下さい。真犯人逮捕に結びつく有力な情報には懸賞金をとはいかなくても“一杯”くらいごちそうしますよ。