アルツハイマー病四方山話-8
(この記事は「重松神経内科医長」に院内報のために14回にわけて掲載させていただきましたものに若干の加筆訂正してまとめたものです)
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第8話
[前回までのあらすじ:アルツハイマー病の真犯人は?軸索流が障害されるとAPPが貯まって、もしかするとアミロイド斑が出来るかも知れない、もちろん痴呆症にもなりそうというところまできました。]
軸索流、もうお馴染みですね。川の流れが滞ると、いろんなものが貯まってくる、そこにまた虫や魚が住み着きやすくなる、丁度そんな感じで、神経の流れが滞ると、APPが貯まってくるし、もしかすればアミロイド斑も出来やすくなる。それだけじゃない。神経細胞の中には糸くずのような線維が貯まってくるし、おまけにその”糸くず”にはリン酸がくっつきやすくなる:つまりリン酸化されやすくなるんです。これがアルツハイマー病の原線維変化にそっくりなのです。以前に僕たちがした実験ですが、この原線維変化が特徴的にそまるアルツ50(アルツはもちろんアルツハイマーのアルツです)という抗体を用いて、軸索流を実験的に障害したネズミの脳を染めてみたことがあります。するとごく少数ではありますが神経細胞が染まってきて、この意味でもアルツハイマー病に似た変化が起こってきていることが証明されました。ちなみにこの実験はアメリカの研究者によって、培養神経(細胞を試験管、正確にはシャーレという平たいお皿の中で飼うんです)でも確かめられました。
さて、その軸索流を障害する原因は、と言うと、それはまだ解りません。ただ、候補は幾つかあります。その代表が実は紹介してきた4つの容疑者、つまり、遺伝子異常、アルミニウム、炎症、それに外傷なのです。遺伝子異常つまりAPPの異常は、川で例えれば流れている水の異常にあたります。APPは軸索の中を流れているので、川の中の水に相当するからです。川つまり軸索は正常でも、流れている水がサラサラしていないなら、例えば水飴のようであったとすれば、流れは悪くなります。アルミニウムについては既に説明した通りです。炎症や外傷は、軸索自体を障害します。丁度土砂が川を塞いだり、地震で土手が壊されるような感じです。つまり4説とも、見方を変えると、軸索流障害という共通点で結ばれることにもなるわけです。前回お話ししたコルヒチンこれも軸索流を障害します。コルヒチンは薬ですからもちろん飲まなければ脳に入ることもないのですが、なんと脳の中にはもともとこのコルヒチンに似た物質があるのだとも言われています。
さあ、軸索流犯人説はこれまでにして、次回からはいよいよ治療のお話。