アルツハイマー病四方山話-3
(この記事は「重松神経内科医長」に院内報のために14回にわけて掲載させていただきましたものに若干の加筆訂正してまとめたものです)
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第3話
[アルツハイマー病の原因探し:遺伝子説とアルミニウム説についで、今回の容疑者は最近注目されている新顔です]
第三候補は炎症です。炎症というのは、例えば肺炎とか関節炎とかがそうなのですが、熱、腫れ、痛み、発赤(赤くなること)の4つを特徴とする病態で、その中身はというと、白血球が集まって外敵(細菌や毒素、場合によっては自分の体の細胞自体が敵になることもあります)と戦っている状態を指しています。アルツハイマー病の脳の中でこの炎症が起こり、そのために脳細胞が死んでいくのだろうと考えているのがこの炎症仮説です。脳の中で白血球の役をするのはミクログリアと呼ばれる細胞です。実際アルツハイマー病の患者さんの脳ではこのミクログリアがもの凄く増えています。特に老人斑の所に沢山集まっていて、しかもそのミクログリアの細胞内にはアミロイドやAPP(老人斑の元になる蛋白質、でしたね)が見つかっています。もしかするとミクログリアが老人斑を作っているのかも知れない、と言う訳です。脳の中にはリンパ球は存在しないと信じられてきたのですが、最近免疫組織化学といった染色方法を用いて、アルツハイマー病の脳の中にはこのリンパ球も出てきていることが証明されました。さらに、「炎症」の時に活性化される物質、例えば補体が脳の中に貯まっていることも確認されて、アルツハイマー病の脳の中で「炎症」が起こっていることは間違いないと考えられるようになってきています。そして、とても興味深いことには、炎症を治す薬(いわゆる鎮痛解熱剤で、代表的な薬がアスピリンです)を長い間飲んでいる人はアルツハイマー病に罹りにくいらしいのです。最初はアメリカで、次いでカナダで、リウマチの方(リウマチの薬は炎症を抑える薬です)にアルツハイマー病が少ないことが報告されました。これは日本でも確認されています。さらに、これは日本の国立療養所の研究成果なのですが、ある種の抗炎症薬を飲んでいると、アルツハイマー病になり難いばかりでなく、脳内の老人斑も少なくなることが発表されています。こうした事実をふまえてアメリカなどで最近アルツハイマー病の抗炎症治療(具体的にはアスピリン投与などです)が開始され、良い結果が得られつつあります。ちなみにアスピリンは、大腸癌も減らすのだそうですね。脳梗塞の予防にもなるし、おまけに痴呆症も減るのでしたら、それこそ頭痛の種も減るかもね。そろそろ飲みましょうか?(でも結果には責任を負いかねますので悪しからず)
(炎症説、如何でしたか?皆さんは、もうちょっとしたアルツハイマー病の専門家ですね。次回は今回取り上げられなかった、そして誰もが多少は経験している原因を紹介しましょう)